体育祭でザクになって走るんだ
- 『モビルスーツを作って体育祭で走りたい━━━━━━━━』
- 全てはこの一枚の写真と、彼の発言から始まった。
- 後に伝説となる、生物部伝説の幕開けである・・・
- 【一日目】
- とりあえず、近所のお菓子屋へ行ってありったけのダンボールを頂いてきた。
- 生物部とはなんら関係の無い、Tっくんを無理矢理連れて行ったのだが、 何故だか快くダンボール運びを手伝ってくれた。
- 彼もモビルスーツに対する、熱い情熱を持った男だったのだろう。
- 部長が顔の基礎を作り、私がボディの基礎を作った。
- 写真は、この計画はとてつもなく無謀な気がした一枚。
- 【2日目】
- 3分間のミーティングの結果、頭部の責任者は部長、ボディの責任者は私になった。Tっくんは姿を見せなかった。
- 部長は普段の行動には寸分似つかわぬ綿密なパーツ分けによって、見事な頭部のアーチを作り出し、 私はポリ○キーの箱と十○茶の箱で見事なボディラインを描いた。
- プロトタイプ1号。
- とりあえず、鼻の部分が長くて気持ち悪い。
- ザクというより近づいたら死ぬ系のロボットの匂いがする。
- 私がボロクソに言ったせいか、彼がやっきになって鼻部分を改修した。
- かなり近寄りやすい存在になったのは、写真を見てもらえれば判ると思う。
- ところで、顔もさることながらボディのそれっぽさはどうだろうか。
- 私は、『これならいける!』と自信が確信にも変わっていた。
- このころから他の生徒が不信な目でこちらを見るようになった気がする。
- 【3日目】
- とりあえず、何故かあった缶スプレーで頭部を塗装。かなりそれっぽい。
- ボディは股部分を作成するに留まった。なんかめんどくさかった。
- 【4日目】
- 私が、ふと思いついたように頭部に角をつけた。
- 部長がゾイドみたいだと言うので、『そんなことは無い!隊長ならばこのくらいのサイズは必要だ!俺が言うんだから間違いない!』と、熱い思いをぶつけた。
- しかし、後になって冷静に見てみると確かに大きすぎたので、サイズを修正した。
- ボディもだいぶ進行してきた。
- もはやザクにしか見えない。いや、フルアーマーアレックスにしか見えない。
- この頃、他の生徒たちは近寄ってすら来なくなっていた。
- にしても○六茶の箱は使い勝手が良すぎる。
- 取っ手のところなんか、排気用ダクトとかにしか見えない。
- 【5日目】
- ロボット系には必ずと言って良いほど必要とされるパーツを塗装中。
- ここのパーツはミノフスキー力学に基づいて設計されているんだよ!嘘です
- 戦闘時の状態(予定)。
- あくまで塗料を乾かす為にこの状態にしていたのに、これを見た顧問に戒められた。
- 今でも納得がいかない。
- 【6日目】
- 何も考えずに作業をしていた我々は機体の保管方法に困った。
- ミーティングの結果、写真のように吊るすことに決定。
- 大きさ比較。写っているのは部長。
- 余談だが、このころ彼は髪を伸ばそうと必死だった気がする。
- 【7日目】
- 連休を挟んだら自重(じじゅう)で機体が崩れていた。
- 直すのもめんどくさかったので放置。下半身に取り掛かることに。
- 【8日目】
- 脚部はさすがに木製。部長が自腹(引越しのバイトから)で5000円払った。
- ここまで来たらもう後へは引けなかった。
- 当初は170センチの足場を作ると部長が言って聞かなかったが、実際作ってみるととても乗って歩けるようなものでなく、 顧問+柔道3段の副顧問に激しく戒められたので、半分以下の大きさにすることに。
- 言い出したら聞かない部長があっさり引いたのは、実際に170センチの足場を見て恐怖したからだろう。竹馬ってレベルじゃねーぞ。
- 結果的に写真のような高さ約80センチのものになった。
- 3回も組んだりばらしたりして、とてつもない時間がかかった。部長を絞め殺したくなった。
- また、このころから副部長のKが手伝ってくれるようになる。
- 部長の執念(具体的に言えば5000円)に何かを感じ取ったのだろう。
- 【9日目】
- あまりに清々しい一枚。
- 完成を目前にして、部長も私も思わず顔がニヤけるほどだった。
- この日は、脚部の骨組みにダンボールで外装を取り付けた。
- 開発当初に比べるとだいぶ雑になっていたが、そんなことはどうでも良かった。
- 【体育祭前日】
- 次回予告みたいな写真が撮れた。
- よく考えてみるとサイズ的には光武だよね。
- とうとう此処まで来た。後は色を塗って、機体に命を吹き込むだけである。
- しかしここで問題が発生した。
- 馬鹿な・・・!缶スプレーが・・・無い・・!
- ダ○ソー(100円均一)のスプレーはあまりに貧弱で、写真のようにしか塗ることが出来なかった。
- もう店も閉店の時間で、どうしようも無かったのでカップラーメン食って帰宅。
- 全ては明日にぶっつけでやることになった。
- これはまた余談だが、どうせ塗りつぶすからと言って部長がザクの背中に『お尻』という意味を表す、 部長の大好きな英単語を書いていたのだが、前述の通り塗料切れによってその単語を消すことが出来ないまま我々は校舎を後にした。
- もちろん次の日、生徒指導の教員に私まで戒められた。
- 怖い。
- 【決戦当日】
- 当日になって、教員たちの抜き打ち検査が発生。どう考えても我々に対処する時間を与えずに表舞台から抹消する算段。
- いつも我々の往く手を阻むとある教員が、『手が無いと危ない。認められない』と言ったので、即座にボディに穴を開けて10分程で手を作った。
- これで文句は言わせない。誰も我々の出撃を止められるものはいないさ!
- ただまだ塗装が完成してなかったので、部長が途中で抜け出してスプレーを購入し、急いで塗装。シンナー臭くてたまらん。
- なんとかギリギリで完成した我々の愛機。誠に残念だが完成時の写真が無い。
- 正直写真なんて撮ってる暇が無かった。
- クラブ対抗リレー参加者の招集が始まる。
- 『スタート位置から装備すればいいじゃないか!』と私は言ったが
- 部長は『そんなんじゃ全然凄くねーだろ!夢を売るのが俺たちの仕事なんだ!ずっとモビルスーツじゃなきゃ駄目なんだ!』みたいなことを言い張って、 やむなく入場門からザクを装備。
- 周りの選手は一斉に走ってスタートラインまで行った。
- だがザクはそうは行かない。足場が足場なので秒速0.5メートルぐらいでしか進めないのだ。
- 遅い。あまりに遅い。80センチの足場でこれなら170センチならどうなっていたんだろう。
- あまりに入場が遅いので、入場門に全校生徒の視線が集まった。
- ようやくザクの存在に気づいた人もいたらしく、辺りがざわつき始める。
- 最初こそ笑いが起きたものの、歩く速度があまりに遅い。
- しまいに体育教師が『はよ来いやボケ』みたいな視線を送ってくるので私は気が気でなかった。
- 部長はマスクを被っているためにそんな視線に気づかないのか、それでも必死に歩を進めていた。でも遅い。
- 体育教師の痺れが切れそうで、その様子を私が見ようと顔をスタートラインの方向に向けた瞬間、グラウンド全体がどよめいた。
- まさか・・・・
- 急ぎ視線を部長の方向へ向ける。
- すぐ隣にあったはずの、2メートルの機体が無い。
- 視線を下に落とすと、無残にも足場から崩れた機体が転がっていた。
- 終わった━━━━━━━━
- 手のことを指摘してきた我々の敵は嬉しそうに笑っていた。
- それまで積み上げたものは一瞬で崩れたが、不思議と私に後悔は無かった。
- むしろ、正直な話、体育教師がブチ切れる前にオチが付いて良かった。
- 【エピローグ】
- 我々が心血注いで作ったザクは崩れてしまって、その面影も記憶もいつかは消える。
- それでも。
- 胸に残るものはあるだろう。
- それを大切に思いながら、僕らは走り出す。
- どこまでも続いていそうなこの青空を。果てしなく遠い所を目指して━━━━━━━━
- ━━━━END━━━━
- 【その後】
- 顧問には捨てろ捨てろと言われたが、もったいないお化けが出るということで生物部のオブジェにすることに。
- が、そのまま放置してたら後の生物部崩壊事件の時に勝手に捨てられていた。
- 僕らの青春が終わった。
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